事業承継の2025年問題とは:後継者不在で廃業する前に検討したい4つの選択肢

事業承継の2025年問題とは、中小企業の経営者の高齢化がピークを迎え、後継者不在を理由とする廃業が一斉に増えかねない問題のことです。2025年を過ぎた今も続く理由を数字で押さえ、親族内承継・役員従業員承継・第三者承継・廃業の4つの選択肢と支援策、動き出すタイミングを中立的に整理します。
事業承継の「2025年問題」とは:何が起きようとしているのか
事業承継の「2025年問題」とは、中小企業の経営者の高齢化がピークを迎え、後継者不在の問題が一斉に表面化することを指します。いわゆる団塊世代の経営者が後期高齢者にあたる年齢に達し、引退の時期を迎える企業が短期間に集中するためです。引き継ぐ人が決まらないまま引退の時期を迎えれば、事業を続けられる会社でも廃業を選ばざるを得なくなります。
経済産業省・中小企業庁の試算(2017年公表)では、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人にのぼり、そのうち約半数の約127万人が後継者未定とされています。さらに、この状態を放置した場合、累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があるとも指摘されました。いずれも一定の前提を置いた試算ですが、問題の規模感を示す数字として広く引用されています。
ここで重要なのは、これが業績悪化による倒産の話ではないという点です。問題の核心は、事業として続けられる会社が、引き継ぐ人がいないというだけの理由で失われかねない、というところにあります。利益が出ているのに会社をたたむ「黒字廃業」がなぜ起きるのか、黒字倒産と何が違うのか、廃業と売却をどう見極めるかは「黒字廃業とは:黒字でも会社をたたむ理由と、廃業・売却の判断基準」で詳しく整理しています。本記事では、その背景にある後継者不在の構造と、企業がとれる選択肢に絞って扱います。
数字で見る2025年問題と廃業:休廃業件数と後継者不在率の推移
2025年問題の規模を掴むうえで、押さえておきたい数字がいくつかあります。ただし休廃業や後継者不在の統計は調査機関によって集計基準が異なり、件数や比率には幅があります。ここでは大きさの感覚を掴むための目安として整理します。
まず休廃業・解散の件数です。倒産(資金繰りに行き詰まった結果としての法的整理など)が年間1万件前後で推移するのに対し、休廃業・解散はその数倍にあたる年間4万件から5万件台の規模で発生しています。会社が姿を消す最も多いパターンは倒産ではなく、経営者自身が「たたむ」と決める休廃業・解散です。しかもそのうち半数以上は直前期が黒字だったという集計が繰り返し示されています。
次に後継者不在率です。民間調査では、2010年代に65%前後で推移していた中小企業の後継者不在率が、近年は50%台前半まで低下しています。事業承継・引継ぎ支援センターの整備やM&Aという選択肢の一般化が進み、承継先を確保できた企業が増えたことが背景にあります。数字だけを見れば改善傾向ですが、裏を返せば、いまだ半数近くの企業が後継者を決められないまま経営者の高齢化が進んでいるということでもあります。
そして冒頭の試算にあるとおり、70歳を超える経営者のうち約127万人が後継者未定という規模感そのものは変わっていません。2025年という節目を過ぎれば問題が終わるわけではなく、引退年齢に達した経営者が毎年積み上がっていく構造的な課題として続きます。「もう2025年は過ぎたから」ではなく、自社の承継をいつどう決めるのかという問いは残り続けます。
2025年を過ぎた今、何が変わったのか:廃業を決める前に確認したい3つのこと
2025年は問題の「期限」ではなく、経営者の高齢化がピークに達した「節目」です。節目を過ぎても、引退年齢を迎える経営者は毎年新たに生まれます。変わったのは問題の大きさではなく、承継のために使える選択肢の幅です。公的な相談窓口や支援制度が整い、M&Aも中小企業にとって珍しい選択ではなくなりました。
それでも、後継者が決まらないまま廃業を選ぶ会社は続いています。その中には、売却や社内承継を一度も検討しないまま廃業を決めたケースも少なくありません。廃業は一度進めると後戻りできないため、決める前に次の3つを確認しておくことをおすすめします。
【1】事業に引き継ぎ手がつく可能性はあるか:規模が小さくても、赤字でも、顧客基盤や許認可、人材に価値を見いだす買い手はいます。小規模な会社の売却については「赤字でも小さくても会社は売れるのか:スモールM&Aで評価されるポイントと売り手の準備」で整理しています。
【2】廃業と承継で、手元に残る金額はどう違うか:廃業では資産が処分価格で評価され、清算費用もかかります。承継や売却では事業の価値に応じた対価を受け取れる可能性があります。両者を同じ前提で並べて比べることが大切です。
【3】従業員と取引先にどんな影響が出るか:廃業すれば雇用と取引関係はそこで途切れます。承継であれば、どこまで引き継がれるかを条件として交渉できます。
この3点を確認したうえで廃業を選ぶのであれば、それも経営者の合理的な判断です。大切なのは、比べないまま決めてしまわないことです。何から始めればよいかは「会社を売りたいと思ったら:M&A売却の始め方と、相談から成約までの流れ」で順を追って解説しています。
なぜ後継者不在がここまで深刻化したのか
かつて中小企業の事業承継は、経営者の子どもなど親族が引き継ぐ「親族内承継」が当たり前でした。しかし近年は、子世代がすでに別のキャリアを築いている、家業を継ぐことへの価値観が変化している、少子化で承継候補そのものが少ない、といった理由から、親族内で後継者を確保できる企業が大きく減っています。
また、中小企業の経営では金融機関からの借入に経営者個人が連帯保証を負っているケースが多く、この個人保証の重さが、家族や社内の人材に承継を勧めにくくする一因になっています。事業の先行きへの不安も加わり、「継いでほしいと言い出せない」状況が生まれやすいのです。
結果として、親族にも社内にも後継者を見いだせない企業が増え、第三者への承継や廃業を現実的に検討せざるを得ない経営者が増加しています。
後継者不在の企業がとれる4つの選択肢
後継者不在に直面したとき、経営者がとりうる選択肢は大きく4つに整理できます。
【1】親族内承継:子どもや親族に引き継ぐ。理念や関係性を引き継ぎやすい一方、候補者の意思と適性、個人保証の引き継ぎが課題になります。
【2】役員・従業員承継(MBO/EBO):社内の役員や従業員が株式を取得して引き継ぐ。事業への理解は深いものの、株式の買い取り資金の確保が壁になりやすい方法です。
【3】第三者承継(M&A):社外の企業や個人へ事業や株式を譲渡する。後継者がいなくても事業を継続でき、創業者は対価を得られます。
【4】廃業・清算:事業をたたみ、資産を処分して清算する。最終手段ではありますが、黒字企業にとっては価値を失う選択になりがちです。
どれが最適かは、事業の状態、経営者の希望、従業員や取引先への影響によって変わります。親族内・社内承継と第三者承継の比較は「親族内承継 vs 第三者承継(M&A):どちらが自社に向いているか」、承継とM&Aの意思決定の枠組みは「事業承継 vs M&A:後継者問題に直面した経営者の意思決定フレームワーク」もあわせてご覧ください。
第三者承継(M&A)という選択肢:廃業と何が変わるのか
黒字でありながら廃業を選ぶと、従業員は職を失い、取引先は仕入れや販売先を失い、長年培ってきた技術やノウハウも途絶えてしまいます。設備や在庫は処分価格でしか評価されないことが多く、清算には費用もかかるため、経営者の手元に残る金額も限られがちです。
一方、第三者承継(M&A)であれば、買い手の傘下で事業と雇用を継続でき、取引先との関係も引き継がれます。経営者は株式や事業の対価を受け取ることができ、その後の生活設計やセカンドキャリアの原資にもなります。廃業とM&Aの比較は「廃業 vs M&A:『最後の選択』の前に必ず検討すべき4つのポイント」、売却後の手取りやキャリアは「会社売却後の創業者利益:手取り・税金とセカンドキャリアの選択肢」で詳しく整理しています。対価がどの程度の水準になりやすいかは「中小企業M&Aの相場:会社はいくらで売れるのか、規模別・業種別の目安を整理する」で規模別・業種別に整理しています。
ただし、M&Aが常に最善というわけではありません。事業の規模や収益性、買い手が見つかるかどうかによって現実的な選択肢は変わります。大切なのは、廃業を前提に考える前に、第三者承継という選択肢を一度きちんと検討してみることです。
国・自治体の支援策と、使う前に考えること
後継者不在の問題には公的な支援の枠組みが用意されています。代表的なものを押さえておくと、相談の入口を選びやすくなります。
【事業承継・引継ぎ支援センター】各都道府県に設置された公的な相談窓口です。親族内承継の相談から、第三者承継(M&A)の相手探し、後継者人材バンクの活用までを無料で相談できます。民間のアドバイザーに依頼する前に、まず中立的な立場で状況を整理してもらう先として使えます。
【事業承継税制】一定の要件を満たす非上場株式の贈与・相続について、贈与税・相続税の納税を猶予する制度です。親族内承継や役員・従業員承継を検討する場合の負担軽減につながります。ただし計画の提出期限や適用要件があり、承継後も継続して満たす必要がある条件を外れると猶予が取り消されます。利用を検討する場合は、最新の要件を税理士など専門家に確認してください。
【経営者保証に関するガイドライン】承継の障壁になりやすい個人保証について、一定の条件下で保証を求めない、あるいは前経営者と後継者の二重保証を回避する運用を促す指針です。個人保証が理由で承継に踏み切れない場合、金融機関との交渉材料になります。
【補助金・支援機関の登録制度】承継やM&Aにかかる専門家費用の一部を補助する仕組みや、一定の要件を満たす支援機関を登録・公表する制度もあります。補助の対象が登録支援機関を利用した場合に限られることがあるため、依頼先を決める前に確認しておくと無駄がありません。民間の相談先も含めて、どこに何を頼めるかは「M&Aアドバイザーの選び方:事業売却の相談先5種類と、比較で失敗しない8つのチェックポイント」で整理しています。
ただし支援策はあくまで手段です。制度が使えるかどうかから逆算して承継の形を決めてしまうと、誰にどう引き継ぎたいのかという本来の目的を見失います。まず自社にとって望ましい引き継ぎ方を決め、それを実現しやすくするために制度を使う、という順番で考えることをおすすめします。
動き出すタイミングと準備
事業承継やM&Aは、経営が安定しているうちに早く動き出すほど選択肢が広がります。業績が落ちてからでは買い手が限られ、希望する条件での承継が難しくなるためです。業績の悪化が資金繰りに及ぶと、損益が黒字でも手元資金が尽きることがあります。その仕組みと早めに打てる手は「黒字倒産とは:利益が出ているのに会社が潰れる原因と、資金繰りが限界になる前の選択肢」で解説しています。会社を売る判断のタイミングについては「会社売却のベストタイミング:経営者が判断すべき5つのサイン」も参考になります。
準備としては、決算書や試算表など財務情報の整備に加え、経営が特定の人に依存しすぎない体制づくり(属人性の低減)、契約や許認可の整理が挙げられます。買い手による調査に備えた準備は「デューデリジェンス(DD)への準備:売り手が事前に整えておくべき5つの領域」で具体的に解説しています。
M&Aによる承継は、相談から成約まで一般的に6ヶ月から1年半程度かかります。「まだ早い」と感じる段階から情報収集を始めておくことが、後悔のない承継につながります。
まとめ:2025年問題は終わらない、選択肢は早いほど広い
2025年問題の本質は、業績不振ではなく、後継者不在によって事業そのものが失われるリスクが一斉に高まることにあります。後継者不在に直面したときの選択肢は、親族内承継・役員従業員承継・第三者承継(M&A)・廃業の4つに整理でき、それぞれに向き不向きがあります。
重要なのは、廃業を前提に考える前に、雇用や取引先、培ってきた価値を残せる第三者承継の可能性を一度検討してみることです。そして、選択肢が広いうちに早めに準備を始めることが、条件面でも有利に働きます。
M&Aプロフェッショナルズには、さまざまなスタンス・得意領域を持つM&Aアドバイザーが掲載されています。承継の進め方に迷う段階でも、自社の状況を整理したうえで、相性の合う専門家を比較・相談することをおすすめします。掲載アドバイザーへの相談からお気軽にご活用ください。



