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基礎知識11分2026年7月9日

赤字でも小さくても会社は売れるのか:スモールM&Aで評価されるポイントと売り手の準備

赤字でも小さくても会社は売れるのか:スモールM&Aで評価されるポイントと売り手の準備

「うちは赤字だから」「規模が小さいから売れない」と考える経営者は少なくありません。しかし近年は、赤字企業や小規模な会社のM&A(スモールM&A)も珍しくなくなっています。なぜ赤字・小規模でも売れるのか、どこが評価されるのか、売り手が今からできる準備を中立的に整理します。

スモールM&Aとは:赤字・小規模でも売却は珍しくない

スモールM&Aに明確な線引きはありませんが、一般には売上数千万円から数億円規模、譲渡価格が数百万円から数千万円程度の小規模なM&Aを指すことが多い言葉です。かつては「一定の規模と黒字がなければ相手にされない」というイメージがありましたが、いまはその前提が当てはまらないケースが増えています。

背景には、後継者不在の深刻化に加え、M&Aマッチングプラットフォームの普及で小規模な会社でも買い手と出会いやすくなったことがあります。売買にかかるコストと手間が下がり、これまで市場に乗りにくかった規模の会社にも取引の場が広がりました。

買い手側も、ゼロから事業を立ち上げる時間を省くために、あえて小さな会社や再建余地のある赤字企業を取得する動きが目立ちます。「赤字だから」「小さいから」と売却の可能性を確かめないまま廃業を選ぶのは、選択肢を狭めることになりかねません。廃業と売却の比較は「廃業 vs M&A:『最後の選択』の前に必ず検討すべき4つのポイント」や「黒字廃業とは:黒字でも会社をたたむ理由と、避けるための選択肢を整理する」でも整理しています。

なぜ買い手は赤字・小さな会社を買うのか

買い手が会社を買う目的は、いま出ている利益だけではありません。多くの買い手は、時間をかけずに手に入れたい資産や機能を求めて会社を取得します。赤字や小規模であっても、次のようなものを持っていれば買い手にとって価値になります。

たとえば、安定した顧客基盤や取引先ネットワーク、取得に時間と手間のかかる許認可や免許、育成が難しい人材や技術・ノウハウ、好立地の拠点や設備、地域で認知されたブランドや商圏などです。いずれも自前で一から築くには年単位の時間がかかるため、「時間を買う」感覚で会社ごと取得する判断がなされます。

また、赤字で積み上がった繰越欠損金を、買い手が将来の課税所得と相殺して節税に活用できる場合があります。ただし税務上の要件や制限があり、常に使えるわけではないため、これ単体を過大に期待するのは禁物です。重要なのは、赤字はそのまま無価値を意味するのではなく、赤字になっている理由と、会社が持つ資産の中身次第で、買い手にとって十分に魅力になり得るということです。

赤字会社はどう評価されるのか

中小企業の価格は、「時価純資産(資産を時価に引き直した正味財産)」に「のれん(将来の収益力に対する上乗せ)」を加えた水準が基本になります。考え方の詳細は「会社の値段はどう決まるのか:中小企業M&Aで使われる3つの企業価値評価方法」や「のれん(営業権)とは:M&A価格を左右する『目に見えない価値』の正体」で解説しています。

赤字の場合、のれん(一般に営業利益の数年分)が乗りにくいのは事実です。しかし、赤字の「中身」を見ると評価が変わることがあります。先行投資や一時的な要因による赤字なのか、それとも継続的で構造的な赤字なのかで、買い手の見方は大きく異なります。オーナーの役員報酬や個人的な経費を実態に引き直すと、実質的には黒字に近いというケースも珍しくありません。

さらに、たとえ損益が赤字でも純資産がプラスであれば、時価純資産をベースに値がつきます。事業の将来性や、買い手と組むことで生まれるシナジーが見込めれば、それも評価に反映されます。自社の規模でどの程度のレンジになりそうかは、「会社はいくらで売れるのか:中小企業の売却相場を業種別・規模別の目安で整理する」で相場観をつかんでおくとよいでしょう。

小規模でも売れる会社・売れにくい会社の違い

小規模でも売れやすいのは、安定した顧客や取引先を持ち、取得に手間のかかる許認可や独自の技術・ニッチな商圏があり、経営者が抜けても一定の人材が残り、数字と契約がきちんと整理されている会社です。買い手が引き継いだあとの姿を具体的に描けるほど、条件は付きやすくなります。

反対に売却が難しくなりやすいのは、特定の取引先や社長個人に売上・ノウハウが極端に依存しているケース、簿外債務や不明瞭な会計があるケース、係争や法令違反のリスクを抱えているケース、そして事業の実体が薄いケースです。

ただし、これらの多くは「売れない」というより「今のままでは条件が付きにくい」状態にすぎません。準備によって改善できる余地が大きいため、諦める前に何がネックになっているかを把握することが大切です。

売り手が今からできる準備(磨き上げ)

評価を少しでも高め、選択肢を広げるために、売り手が事前にできることがあります。これはよく「磨き上げ」と呼ばれます。まずは数字の見える化です。正確な決算書や試算表を整え、役員報酬やオーナー個人の経費を実態に引き直して、本来の収益力が伝わるようにしておきます。

次に、社長への依存度を下げることです。経営者がいなくても業務が回る仕組みづくりや、業務の標準化・引き継ぎ資料の整備は、買い手の不安を減らし条件の改善につながります。あわせて、簿外債務や偶発債務を洗い出し、契約や許認可の内容を書面で確認しておくことも重要です。赤字の場合は、それが一過性であることを示す資料を用意できると説明がしやすくなります。

磨き上げには時間がかかるため、売却を最終的に決める前でも、現状把握として早めに相談する価値があります。動くべき時期の考え方は「会社売却のベストタイミング:経営者が判断すべき5つのサイン」も参考になります。

まず何から始めるか

赤字でも小規模でも、まずは自社が外からどう見えるのかを知ることから始めるのがおすすめです。相談することと売却を決めることは別であり、現状を把握するだけでも次の経営判断に役立ちます。全体の進め方は「会社を売りたいと思ったら:M&A売却の始め方と、相談から成約までの流れ」で確認できます。

M&Aの相談先には、仲介・買い手側のFA・売り手側のFAなど立場の異なる専門家がいます。それぞれ役割や報酬の考え方が異なるため、目的や会社の状況に合う相談先を複数比較したうえで一度相談してみることが、選択肢を狭めない第一歩になります。売却後にいくら手元に残るのかは「会社売却後の創業者利益:手取り・税金とセカンドキャリアの選択肢」も参考にしてください。

「うちの会社は売れない」と思っていても、実際には独自の資産や続いてきた取引関係に価値があることは少なくありません。廃業を決める前に、まずは売却の可能性を確かめてみることをおすすめします。

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