
「自社はいくらで売れるのか」は、M&Aを検討する経営者すべてが最も気になる問いです。中小企業M&Aで実際に使われる3つの代表的な企業価値評価方法と、業種別の相場感、そして売却価格を高めるために売り手ができる事前準備を解説します。
M&Aの売却価格は、不動産のように公示価格や路線価といった客観的な指標があるわけではありません。基本的には「買い手がいくら出せるか」と「売り手がいくらで売りたいか」の交渉で決まります。ただし、その出発点となる「客観的な企業価値」を算定する手法はある程度確立されており、業界では複数の評価方法を組み合わせて妥当な価格レンジを導き出します。
M&Aアドバイザーは、これらの評価手法を駆使して自社の市場価値を算定し、価格交渉の根拠として使います。経営者ご自身も基本的な評価ロジックを理解しておくことで、アドバイザーの説明を正しく咀嚼でき、納得感のある意思決定ができるようになります。
本記事では、中小企業M&Aで実際に使われる3つの代表的な企業価値評価方法を整理します。
DCF法(Discounted Cash Flow法、ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)は、将来生み出すと見込まれるキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算定する方法です。理論的には最も精緻な評価手法とされ、大企業のM&Aや上場会社のバリュエーションで多用されます。
具体的には、向こう5〜10年の事業計画から営業キャッシュフローを予測し、それを資本コスト(WACC、加重平均資本コスト)で現在価値に割り引きます。さらに、計画期間以降の永続的な事業価値(ターミナルバリュー)を加算して、企業価値を導きます。
中小M&Aでは、事業計画の精度や前提の妥当性が問われるため、DCF法は補助的に使われることが多いのが実態です。前提次第で結果が大きくぶれるため、複数の前提でシナリオ分析を行うのが通例です。
類似会社比較法は、同業他社の市場価値を参考に対象企業の価値を算定する方法です。中小M&Aで最もよく使われるのが「EBITDAマルチプル」というシンプルな算式です。
EBITDA(イービッダー)は、営業利益+減価償却費+のれん償却費で算出される、企業の本業のキャッシュ創出力を示す指標です。これに業種ごとの「マルチプル(倍率)」を掛けることで、企業価値の目安を算定します。
たとえば、EBITDA1億円の製造業で業種マルチプルが5倍であれば、企業価値の目安は5億円となります。業種別の代表的なマルチプル相場は、ITサービスで6〜10倍、製造業で4〜6倍、卸売業で3〜5倍、サービス業で3〜6倍程度。ただしこれは大まかな目安であり、成長性・市場ポジション・収益安定性によって大きく上下します。
コストアプローチは、貸借対照表の純資産を基準に企業価値を算定する方法です。中小M&Aで広く使われるのが「年買法(ねんばいほう)」と呼ばれる、純資産+営業権(のれん)の合算方式です。
営業権(のれん)は「営業利益の3〜5年分」で算定するのが慣例で、業界・業種・収益安定性・取引先の集中度などによって倍率が変動します。たとえば、純資産2億円・営業利益5,000万円・営業権倍率3年の会社であれば、企業価値の目安は2億円+5,000万円×3年=3.5億円となります。
年買法はシンプルで分かりやすく、中小M&Aで売り手・買い手双方が納得しやすい評価手法として広く使われています。ただし、将来の成長性が高い企業ではDCF法やEBITDAマルチプルのほうが高めに評価されることも多く、複数の手法での試算結果を比較することが重要です。
3期分の決算書、月次試算表、勘案損益(経営者報酬・社用車費用などの正常化調整)を整理しておく。
オーナー経営者特有の経費(過大な役員報酬、家族への給与、私的経費など)を整理し、買い手が見る「正常化EBITDA」を高く算定できるよう準備する。
「向こう3年でどう成長するか」を数字とロジックで説明できる事業計画を準備する。
技術力・顧客基盤・人材・ブランド・取引先関係など、決算書には出てこない強みを言語化し、買い手に伝わる形でまとめておく。
未払い残業代、契約書の未整備、知的財産の管理状況、関連当事者取引など、買い手のDDで指摘されやすい論点を事前に整理・是正する。
自社の企業価値を客観的に把握できているかどうかは、M&A交渉における経営者の交渉力を大きく左右します。「自分の感覚値」だけで価格を主張すると、合理的根拠を持つ買い手側に対して劣勢に立たされやすくなります。
M&Aプロフェッショナルズに掲載されている買い手FAは、複数の評価手法を組み合わせて自社の市場価値を無料で算定してくれます。費用は一切かかりませんので、「自社の今の価値はどれくらいか」を把握する目的だけでも、お気軽に複数のアドバイザーにご相談ください。