
「会社はいくらで売れるのか」は、売却を考える経営者が最初に抱く疑問です。本記事は、中小企業M&Aの売却相場を「時価純資産+のれん」の考え方から整理し、規模別・業種別の目安、価格を左右する4つの要因、相場より高く売るための準備、簡易的な自己査定のステップまでを売り手目線でまとめます。
「会社はいくらで売れるのか」は、売却を考え始めた経営者が最初に抱く疑問です。結論から言うと、売却価格に一律の定価はなく、「会社の純資産(資産から負債を引いた正味の財産)」に「収益力に応じた上乗せ(のれん)」を加えたあたりが、中小企業M&Aの一般的な目安になります。
ざっくりした目安としては、中小企業では「時価純資産+営業利益の2〜5年分」や「EBITDA(営業利益+減価償却費)の3〜6倍程度」といった水準がよく使われます。ただし業種・成長性・利益の安定性・社長への依存度によって上下し、同じ利益額でも数倍の差がつくことは珍しくありません。
つまり相場は「レンジ(幅)」でとらえるものです。本記事では、価格の決まり方、規模別・業種別の目安、価格を左右する要因、そして「相場より高く売る」ために準備できることを、売り手目線で整理します。
売却価格の土台になるのが企業価値評価です。評価には大きく3つのアプローチがあります。
1つ目はコストアプローチで、純資産をベースに評価します。2つ目はインカムアプローチで、将来生み出す利益やキャッシュフローをベースに評価します(DCF法など)。3つ目はマーケットアプローチで、類似する上場企業や過去のM&A事例の倍率をベースに評価します。
中小企業のM&Aでは、実務上「時価純資産+のれん(営業利益の数年分)」という折衷的な考え方が広く使われます。評価方法の基本は「会社の値段はどう決まるのか:中小企業M&Aで使われる3つの企業価値評価方法」で詳しく解説しています。まずは自社がどのアプローチで評価されやすいかを知ることが出発点です。
相場観をつかむために、規模(利益水準)別のおおまかなレンジを示します。あくまで一般的な目安であり、実際は個別性が高い点にご留意ください。
営業利益が数百万円規模の小規模M&A(スモールM&A)では、売却価格は数百万円から数千万円が中心です。営業利益が数千万円規模になると、数千万円から数億円のレンジに入ってきます。営業利益が1億円を超える規模では、成長性や事業の希少性次第でEBITDA倍率が高くつき、価格が大きく伸びることもあります。
重要なのは、売上の大きさよりも「利益(とくに営業利益・EBITDA)の水準と安定性」が価格を左右するという点です。赤字や小規模でも、顧客基盤・技術・許認可などに価値があれば売れるケースはあります。スタートアップなど成長企業の相場観は「スタートアップのM&A相場とバリュエーション:売却価格はどう決まるか」も参考になります。
業種によって、価格の付き方の「クセ」があります。大づかみに3タイプで捉えると理解しやすくなります。
労働集約型(人材紹介・広告制作・美容・飲食など)は、社長や特定スタッフへの依存度が高いほど、のれんが付きにくい傾向があります。属人性をどう引き継ぐかが価格のカギです。資産型(不動産・製造・旅館など)は、保有資産や設備の含み損益・稼働状況が価格に強く反映されます。ストック型・高利益率型(SaaS・調剤薬局・許認可ビジネスなど)は、継続収益や参入障壁が評価され、倍率が高くつきやすい傾向があります。
このように、同じ利益でも業種特性で相場は変わります。自社の業種の論点は、各業種別の記事(例として「人材紹介・人材派遣業のM&A」「調剤薬局のM&A」など)もあわせて参考にしてください。
規模・業種の目安に加えて、次の4つの要因が価格を上下させます。
1つ目は純資産の厚みで、内部留保が厚いほど価格の下支えになります。2つ目はのれん(収益力)で、利益の水準と安定性、成長性が高いほど上乗せが大きくなります。のれんの考え方は「のれん(営業権)とは:M&A価格を左右する「目に見えない価値」の正体」で解説しています。3つ目は成長性で、右肩上がりの局面ほど高く評価されます。4つ目は属人性(社長依存度)で、社長がいなくても回る仕組みほど買い手のリスクが下がり、価格が付きやすくなります。
売るタイミングも相場に効きます。業績が伸びている時期ほど評価されやすいため、動き出す目安は「会社売却のベストタイミング:経営者が判断すべき5つのサイン」で確認しておくとよいでしょう。
相場はレンジであるため、同じ会社でも準備次第で上限に近づけることができます。売り手ができる準備は、主に次のとおりです。
決算書3期分や主要な契約・許認可を整理し、数字の根拠を説明できるようにしておくこと。社長依存を減らし、キーパーソンや業務フローを見える化しておくこと。一過性の費用や個人的な支出を区分し、実力ベースの利益(正常収益力)を示せるようにしておくこと。これらは買い手の不安を減らし、のれんの上乗せにつながります。
加えて、1社だけに相談するのではなく、複数の買い手候補や専門家を比較することも価格に効きます。準備の全体像は「会社を売りたいと思ったら:M&A売却の始め方と、相談から成約までの流れ」で段階ごとに整理しています。
厳密な評価は専門家が行いますが、相場感を自分でつかむための簡易ステップを示します。1つ目に、直近の営業利益(またはEBITDA)を確認します。2つ目に、時価純資産(資産の含み損益を反映した正味財産)を概算します。3つ目に、「時価純資産+営業利益の2〜5年分」を計算し、ざっくりのレンジを出します。これで「桁」の感覚はつかめます。
ただし、のれんの倍率や業種特性、買い手との相性による上振れ・下振れは、実際の交渉で大きく動きます。手取り額は税金でも変わるため、最終的にいくら残るかは「会社売却後の創業者利益:手取り・税金とセカンドキャリアの選択肢」もあわせて確認してください。
正確な相場と「自社の場合いくらか」を知るには、実績のある専門家に一度査定・相談するのが近道です。M&Aプロフェッショナルズでは、M&A仲介会社・買い手FA・売り手FAを、得意業種・対応規模・所属コンサルタントの実績から比較して相談できます。まずは自社の状況を整理し、目的に合う専門家に相場を確認することから始めてみてください。
会社の売却相場に定価はなく、「時価純資産+のれん(営業利益の数年分)」を軸に、規模・業種・成長性・属人性で上下するレンジとして決まります。中小企業では、営業利益の水準と安定性が価格の中心的な決定要因です。
まずは簡易査定で桁の感覚をつかみ、決算・契約・許認可の整理や社長依存の低減といった準備で、レンジの上限に近づけていくことが大切です。
「自社はいくらで売れるのか」を正確に知るには、複数の専門家を比較して一度相談するのが確実です。目的に合う相談先を選び、相場の把握から次の一歩を踏み出してみてください。