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基礎知識9分2026年5月21日

会社売却後の創業者利益:手取り・税金とセカンドキャリアの選択肢

会社売却後の創業者利益:手取り・税金とセカンドキャリアの選択肢

会社を売却して得る「創業者利益」は、額面と手取りが大きく異なります。株式譲渡益にかかる税金の基本、退職金スキームによる手取り最大化の考え方、受け取った資金の使い道、そしてイグジット後のセカンドキャリアの選択肢までを、売り手経営者の目線で整理します。

創業者利益とは:会社を売って手元に残るお金

創業者利益とは、経営者が保有する自社株式を売却することで得る利益のことです。M&Aによる会社売却では、買い手が株式を買い取る対価が創業者(株主)に支払われ、これが多くの経営者にとって長年の事業活動に対する最大のリターンになります。

ただし注意したいのは、譲渡価格の「額面」と、税金を差し引いたあとに実際に手元へ残る「手取り」は大きく異なるという点です。出口戦略を考えるうえでは、いくらで売れるかと同じくらい、いくら残るか・残ったお金で何をするかを早い段階から設計しておくことが、後悔のないイグジットにつながります。出口の選び方そのものは「IPO vs M&A:出口戦略をどう選ぶか」や「成長のための会社売却」もあわせてご覧ください。

手取りはいくら残るか:株式譲渡益にかかる税金の基本

個人が保有する株式を売却して得た利益(譲渡所得)には、申告分離課税が適用されます。税率は所得税・復興特別所得税・住民税をあわせて20.315%(所得税15.315%+住民税5%)です。給与など他の所得と合算されず、この一定税率で課税されるのが特徴です。

譲渡所得は「譲渡価格 −(取得費 + 譲渡費用)」で計算します。取得費は出資した資本金などが該当し、創業者の場合は取得費が小さいことが多いため、譲渡価格の大部分が課税対象になりがちです。たとえば額面3億円で株式を売却し取得費・費用が1,000万円なら、課税対象は約2.9億円、税額は約5,900万円となり、手取りは概ね2.4億円程度になる計算です。

なお、株式の保有者が個人か資産管理会社(持株会社)かによって課税関係は変わります。法人で受けると法人税の枠組みになり、その後の配当・役員報酬での個人への移転にも課税が生じます。どの器で受けるのが有利かは資本構成によって異なるため、早めに税理士へ相談することをおすすめします。

退職金スキーム:手取りを最大化する代表的な設計

株式譲渡の対価の一部を、経営者の役員退職慰労金として受け取る設計はよく用いられます。退職所得は税制上きわめて優遇されており、「(退職金 − 退職所得控除) × 1/2」が課税対象となるうえ、他の所得と分離して課税されます。

退職所得控除は勤続年数に応じて増え、勤続20年超の部分は1年あたり70万円が加算されます。たとえば勤続30年なら控除額は1,500万円となり、さらに残額の2分の1だけが課税対象になるため、同じ金額を株式譲渡益として受け取るより手取りが大きくなるケースが少なくありません。

実務では、株式譲渡対価と退職金の配分をどう設計するかで売り手・買い手双方の税負担が変わります。買い手にとって退職金は損金算入できる一方、不相当に高額な部分は否認リスクがあるため、適正額の範囲で組むことが前提です。配分の最適解は個別事情で変わるので、税理士・M&Aアドバイザーと一体で詰めるのが安全です。退職金と税金の基本は「退職金と税金対策:M&A売却金を最大化する税務スキームの基本」もご参照ください。

受け取った資金の使い道:再投資・分散・生活防衛

まとまった創業者利益を手にしたあと、その資金をどう扱うかも重要なテーマです。大別すると、(1) 次の事業や他社への再投資、(2) 株式・不動産などへの資産分散、(3) 生活基盤の確保(生活防衛資金)の3つの方向性があります。

注意したいのは、事業を一括売却した直後は手元資金が大きく膨らむ一方、安定収入が途切れる点です。これまで役員報酬という形で得ていたキャッシュフローがなくなるため、当面の生活費・納税資金を先に確保したうえで、リスク資産への配分を考える順序が基本になります。売却対価には翌年の納税分(譲渡所得税)も含まれるため、納税のための資金を使い込まないよう分けて管理することが大切です。

セカンドキャリアの選択肢:再起業・投資家・顧問という道

イグジット後の過ごし方は人それぞれですが、近年は「引退」よりも「次の挑戦」を選ぶ経営者が増えています。代表的な選択肢として、新たな会社を立ち上げる再起業(シリアルアントレプレナー)、スタートアップへ出資・支援するエンジェル投資家、自身の経験を活かす社外取締役・顧問・アドバイザーなどがあります。

M&Aによるイグジットは、こうしたセカンドキャリアの「原資」と「時間」を同時に生み出す手段でもあります。買い手のグループに残ってPMI(統合後の経営)を主導しながら次の準備をする経営者もいれば、ロックアップ期間の経過後に完全に独立する人もいます。どのような次の一手を描くかによって、売却時に交渉すべき継続在籍の条件やアーンアウトの設計も変わってきます。

重要なのは、出口を「終わり」ではなく「次の起点」として位置づけることです。何を実現するために売るのかが明確であれば、価格だけでなく、相手・スキーム・タイミングの判断もぶれにくくなります。

イグジット前に決めておきたい3つのこと

創業者利益を最大限に活かすには、売却交渉に入る前の準備が鍵になります。最低限、次の3点を整理しておくことをおすすめします。

【1】手取りの目標額を先に決める:額面ではなく、税引後にいくら残れば次の計画が成り立つのかを逆算する。これが価格交渉の判断軸になります。

【2】株式譲渡と退職金の配分方針を税理士と固める:器(個人/資産管理会社)の選択を含め、売却スキームが固まる前に税務の方針を持っておく。後から変えにくい論点です。

【3】売却後のキャリア・資金計画を描く:再起業か、投資か、引退か。次の一手が決まっていれば、継続在籍条件やロックアップの交渉でも主導権を握りやすくなります。

まとめ:「いくらで売るか」と同じくらい「いくら残し、何に使うか」

会社売却で得る創業者利益は、額面と手取りが大きく異なり、株式譲渡と退職金の配分や受け取る器によって最終的に残る金額が変わります。そして、その資金をどう使い、どんなセカンドキャリアを描くかまでを含めて設計してこそ、イグジットは「次の起点」になります。

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